日本料理店の再建計画

   

   

2011年東日本大震災。わたしは設計事務所を独立した直後でした。震災の1ヶ月後に初めて宮城に行きました。その後も何度も行く中で、大きな悲劇を受け止めきれずに、足が遠のいた時期もありましたが、この再建計画を経ていろいろな経験をすることができました。

この計画は、津波に襲われた創業100年を越える料亭の再建計画です。この料亭は、地元の人々が冠婚葬祭などの大切な節目に訪れ、愛されてきたお店でした。周辺地域の建物の所有者は次々に解体や移住という選択をする中で、店主は再建というとても勇気あるご決断をされました。実測調査を進めながら、損傷部など撤去や減築をする部分、機能や性能の改善のために復旧や増築改築をする部分、新たに付加する機能など、打合せを重ねました。

1階の厨房部分は機能も配置も大幅に変え、客席部分はバリアフリーとし、従前にはなかったカジュアルなイメージのテーブル席やカウンター席としました。一方で、2階は大広間や個室など震災前の雰囲気に近づける復元のような改修にしています。

2013年、再建したこの料亭が地域の方々に勇気をもたらしてくれるような存在になっていることを強く実感し、“建築”の存在意義を自分の中で改めて設定することができた、とても大切な経験となりました。

   

▲1階カウンター席。カウンター材は元々近隣の小料理屋さんで使っていた材料を加工し、製作しています。