シェア美容室

   

シェア美容室リル / 錦糸町 『2020年度グッドデザイン賞』受賞

   

この美容室は、フリーランスの美容師が働く空間です。

フリーランスの美容師とは、店を持たずに独立して働く人のことで、独立開店を目指す人もいれば、他の仕事をしながら働いている人、子育てをしながら働いている人もいます。業界には「面貸し」と呼ばれる美容室の一席を借りて働く仕組みがありますが、弱点として、他の美容師との物理的距離が近いことによって、自分のお客様とのコミュニケーションが取りづらいことや、貸し手との関係から経営的にも空間的にも個性を表現しながら仕事がしづらいことがあります。 そこで、様々な働き方を選択したいフリーランスの美容師達が、気持ちよくお客様とのコミュニケーションを図り、個性を発揮し自律した働き方を実現する空間としました。

ここで働く美容師たちが、物や場所をシェアするだけでなく、コミュニケーションやコラボレーションから生まれる価値をシェアしたり、知識やスキルを交換することによって、学びや成長や働く喜びを獲得できるようになることを目指しています。 カットスペースは、優しい木質の壁で部分的に囲われた6つの個室となっています。壁の高さは190cmとし、端部を開放する位置に開口部や壁の隙間を作り、緩やかに空気が動くようにしました。周りの空間と繋がることで、お客様はどの個室にいても植栽や北側のさわやかな風景を感じることができます。

個室形式の弱点である、視認性の悪さによる各場所での作業の難しさを解消するために、美容師の動きと視線を踏まえて、個室の壁の開口と鏡の位置を設定し、他の人の動きを把握できるようにしました。お客様は、心地よく包み込まれた空間で、安心して美容師とのコミュニケーションを楽しむと同時に、美容師は他のメンバーとの繋がりを感じながら、独立して仕事をすることができる空間構成となっています。6つの個室は、配置や構成や植栽により個性(空間の質の違い)を設定し、美容師とお客様との関係性やそれぞれの好みにより、その都度、個室を選択することができるようにしています。

   


photo by michiho